ニッサン ダットサントラック(D21)のご入庫
出先でエンジンが止まったので助けてほしいとの事
お話を伺うと止まる前にエンジンルームから煙のようなものが出たとの事でした。
煙のようなものが出たということはよくあるのですが、ものが燃えたときの煙と水蒸気のような煙があるのですが水蒸気のように見えたとの事
考えられるのはオーバーヒートです!
到着してラジエーターの中を確認すると案の定、冷却水が入っていません、オーバーヒートを起こしてエンジンが止まってしまったのは間違いなさそうです。
お預かりしてオーバーヒートの原因とどれだけダメージを負ったかを点検します。
まず、原因は簡単にわかりました。
ラジエーターのアッパータンクから冷却水が漏れてきていますので経年劣化により割れてしまったのが原因です。
次にどれだけエンジンがダメージを負ったかを点検するため仮に冷却水を補充してエンジンを掛けます。
するとラジエーターから冷却水が噴き出してきます、そして噴き出したところから排気ガスの臭いがします!
本来冷却水が入っているところから排気ガス臭はするわけがありませんこれはエンジンのヘッドガスケットが抜けたという症状でかなり重症です。
お客様と相談の上、とりあえずエンジンヘッドを外して修理可能か判断をしてもらいたいとご依頼を受けましたのでエンジンヘッドを取り外します。
エンジンは腰下と呼ばれるエンジンブロックとその上に乗っかるエンジンヘッドに分かれます。
そのつなぎ目の面にはヘッドガスケットが挟まれていて、オイル・冷却水の通路やシリンダーのそれぞれの気密を保つ役目をしています。
”ヘッドガスケットが抜ける”という症状は、この通路の気密が保てなくなり冷却水の通路にエンジンの圧力が抜けたり、油路とつながってしまったりする症状です。
今回は冷却水の水路にシリンダーがつながったためラジエーターから排気ガスの臭いがしたというわけです。
では、なぜオーバーヒートするとガスケットが抜けるのでしょう?
金属は、熱で膨張収縮をします温度コントロール出来ている状態であれば膨張収縮は規定範囲内で壊れないように設計されています、しかしオーバーヒートのような想定以上の熱が加わった場合金属の膨張はゆがみとして現れてしまうのです。
ゆがみは冷めたとしても元には戻りません。
今回もエンジンヘッド自体に大きなゆがみが発生しました。
この写真は、エンジンヘッドのブロックとの取りつけ面をストレートエッジと呼ばれる測定工具で面の平面度を測定しているものです。
真っすぐなストレートエッジに対して、すき間があるということはそれだけヘッドの面がゆがんでしまっているという事です。
このエンジンのゆがみの限界値は0.1mmですが測定してみると0.2mmゆがんでいることがわかりました。
過大な熱を受けたことでアルミニウム素材で出来ているエンジンヘッドはこれだけゆがんだのです、ゆがんだことでヘッドとブロックの間に挟まっているガスケットにもすき間が生じたためガスケット抜けは起きました。
ブロックのゆがみを測定しましたが鉄製のブロックには大きなダメージはありませんでした。
ゆがんだまま組み付けたとしてもガスケットは均一に押さえつけられないため通路が確保できずに同じ症状を起こしてしまいます、そこでゆがみを取り去る作業が必要になります。
ゆがみを取り去るにはヘッドの面を新たに平面に削り直す必要があります、これは面研と呼ばれ内燃機屋さんと呼ばれる機械加工屋さんに依頼します。
面研が終わったヘッドの面がこちら
綺麗にかつ平らに削られて戻ってきました。
新しいガスケットに交換して、エンジンを組み直しラジエータも交換して修理完了です。
オーバーヒートという症状はエンジンにかなりのダメージを与えます、今回のエンジンは面研する余裕があるエンジンでしたので修理が可能でしたが、最近の新しいエンジンは研磨する余裕が無かったりブロックがアルミニウムの為ブロック自体も大きくゆがんでしまい修理不可能なこともあります。
もし走行中、オーバーヒートを起こした場合安全な場所に退避してそれ以上エンジンを掛けないようにしてください。
初期のオーバーヒートでしたらエンジンにダメージを与えず漏れ箇所だけの修理で済みます。
対処次第で明暗を分けますのでご注意を・・・
最後にどれだけ激しくオーバーヒートさせたかわかるものでサーモスタットを紹介します。
あまりに激しい温度のため開ける際突っ張るシャフトが飛び出して外れています。
それだけ大きな熱が加わったということです。