FIAT ムルティプラのタイミングベルト交換です。
大変個性的なムルティプラ、ワイドな車体に似合わず かわいらしいFIAT製1.6Lツインカムエンジンを搭載しています。
FIATグループ(アルファロメオなど)のエンジンはカムシャフトとタイミングプーリーの固定にキーを使用していませんのでSST(スペシャルサービスツール:特殊工具)をセットしなければ正確なタイミングを取ることは不可能です。
このエンジンでは、カムシャフトの後ろ側にこのようなSSTをセットします。(エンジンによってカムの固定にはさまざまなSSTが存在します。)
このSSTでカムシャフトを、No1シリンダー圧縮上死点位置に固定することが出来ます。
次にNo1シリンダーのプラグホールにこのSSTをセットして正確にNo1シリンダーピストンを上死点位置にします。
※写真はアルファロメオです。真ん中の時計のような工具(ダイヤルゲージ)が上死点を正確に出すSSTです。
新しいタイミングベルトをセットしテンショナーを適切なテンションにあわせます。(その際、タイミングプーリーの固定ボルトはフリーにします。)
テンショナーもSSTを使用して、適正なテンションをベルトにかけます。
ピストン上死点とカム位置が決まっているのでタイミングプーリーのボルトを締め付けて組み付けはお終いです。
と、簡単に書きましたがSSTがあるからといって簡単に組めないのもイタリア車。SSTのセットにも遊びがあり、なかなかよい位置に決めるのには苦労します。(微妙な位置を出すために何度も調整を繰り返します。)
しかし、バルブタイミングをしっかりとって組んだエンジンは大変心地よいエンジンフィーリングを取り戻します。
ほとんどのメーカーではカムとタイミングプーリーの位置決めにキーというものが入っているためカムとプーリーの位置関係は決してずれませんので、このような手のかかるタイミングベルト交換はしません。
ではなぜこんな面倒な構造なのでしょう?
新品でも必ず微妙な長さの差やエンジン側の個体差がありますので、エンジンに組みつけた際バルブタイミング調整が出来るほうがより正確に組むことが出来、本来の設計通りの性能を出すことが出来るのです。
それにタイミングベルトはゴムの為使用過程で必ず伸びます。そのときにタイミングプーリーの位置をずらすことが出来るこの設計は再調整が出来るため、伸びたベルトでも適切なバルブタイミングに調整できる大変理にかなった構造なのです。
プーリーの位置が固定されているエンジンでは個体差によるバルブタイミングのずれは調整できませんし、ベルトが伸びてくればタイミングは必ずずれ性能低下してきます。そのタイミングを正しい位置にするには伸びてしまったタイミングベルトを交換しなければ元には戻らないんです。
調整が出来るということは、多少伸びてしまったベルトでも調整して適切なタイミングに合わせることが出来るということです。しかし調整するには整備士の腕が大きく性能に左右してきます。
なかにはSSTも使用せずにアイマークを付けてただ元通りに組み付けたような車両を見かけることがあります。
いい加減に組んでもそこそこ走ってしまうのもイタリア車ですが、本来のポテンシャルを発揮させてあげることが出来れば、きびきび走るイタリア車ならではの走りを堪能することが出来ます。