VW トゥアレグ3.6のご入庫
”何か大きな音がしてからエアコンが効かなくなった”との事
このような発生状況を聞くと何か嫌な予感がします。
まず点検をしていきます。
エアコンはエアコンガスが入っていてコンプレッサーが回るのが基本になります。
まず、エアコンガスの量はともかくとしてコンプレッサーが回るだけの量は入っているようです。
次にコンプレッサーが回るかは可変容量タイプのコンプレッサーはマグネットクラッチがプーリーにありませんので見た目ではわかりません。
しかし簡単に判断する方法があります。
プーリーの中心にあるボルトを廻します。常時回転されるこのタイプはベルトが掛かっていれば手で回すことが出来ません。
ですがこちらのお車、中心のボルトが回ってしまいプーリーの外側は回りません。それにスムーズに回らずギクシャクします。
動画でコンプレッサーを取り外した状況ですが、本来なら回しているプーリーと一緒に中心が回るのが正常な状態です。
残念ながらこれはプーリーの破断ポイント(弱点)が破断してしてしまっている状態です。
分解してみるとこの通り
プーリー内部が見事に引きちぎれています!
なぜこのようになったかというとこれは、コンプレッサー本体の焼き付きでベルトで回せなくなったためベルトが切れて走行不能になることを防ぐ保護機能としてプーリーの破断点は切れたのです。
こうすることでベルトはプーリーのみを空回りして回り続けることが出来て走行不能になることを回避できるのです。
コンプレッサーを分解しますと焼き付いた内部は鉄粉だらけです。
ケースを固定しているボルトが曲がってしまっています。
これだけの力が加わってプーリーが破断したのです。
これがお客様がおっしゃっていた”何か大きな音がした”時の状態です。
今回は予算の都合上、コンプレッサーの交換のみになりましたがこの症状の時の完全な修理方法はエアコンの冷媒システムの全体の洗浄もしくは洗浄が出来ない部分の部品交換を行わなければ完全な修理とは言えません。
冷媒システムは冷媒(エアコンガス)を循環させることで作動させているのですが、先ほどのコンプレッサーから出てきた鉄粉がこの回路に残っていればせっかく交換したコンプレッサーに残った鉄粉が入り込みまた壊してしまったり、鉄粉が詰まって冷媒が回らなくなったりする可能性が有ります。
しかし、言葉で言えば簡単な洗浄ですが実際には洗浄できる場所はパイプやホースの中一部のみでほとんどの部品の交換が必要になってしまいます。
また、構成部品は室内でしたらダッシュボード取り外したり、エンジンルーム内でもバンパーを取り外すなどしなければならず広範囲にわたり工賃もばかになりません。
完全に再発も防ぐ修理は、部品・工賃含めると何十万円になる一大事になってしまうのです。
では、そもそもなぜこのようなことになったのでしょう、また防ぐことはできなかったのでしょうか?
今回のお車、走行距離は8万kmとそれほど過走行車ではありません。
しかし、可変容量タイプのコンプレッサーはエアコンを入れていない時でも常に回されているため、いままでのマグネットクラッチタイプのようにエアコンを入れていない時は本体が完全に回らないタイプとは大きく負荷が違います。
メーカーでもこのようなことを含めて耐久性を上げる努力は必要かと思いますがコストとの兼ね合いでなかなか難しいのかもしれません。
次に防ぐことは可能なのか?という問題ですが、冷媒システム内はコンプレッサーオイルというもので潤滑を担っているのですがエンジンオイルなどと違い定期的な交換の指定はありません。
しいてある方法としては、定期的に調整を必要とするエアコンガス回収機でのガス調整の際、WAKO'SやNUTECのエアコン添加剤を添加してコンプレッサーオイルの性能を引き上げることではないでしょうか。
または、ある程度過走行の場合は焼き付く前にコンプレッサーを交換してしまうしかないと思います。
※現状壊れていない高額なコンプレッサーを交換してしまうというのは現実的ではありませんが・・・
エアコンの焼き付きトラブルが、実はエンジンやミッションに並ぶほどの高額な修理になることはあまり知られていません。
予算の都合上、焼き付いた部分だけでの交換になってしまうことも多いのですが、コンプレッサーのみの交換はリスクがあることをしつこいほど説明するのは、再発の恐れがあるのと完全な修理ではないからなのです。