後ろタイヤの方からコトコトすごい音がするとの事で緊急でいらっしゃいました。
何か大変なことが起きているとすぐにわかるほど大きな音がタイヤの回転とともにします。
答えは車両に触れるまでもなくすぐにわかりました。
タイヤを留めるホイールナットがひとつ無くなっています!
1個無くなっているということは他も締まっていない可能性があるため見てみると・・・
やはりナットがゆるゆるでホイールもガタガタです。
お客様にお話を聞くと格安スピード車検の店舗で車検を受けたばかりとの事。
確かに記録簿を見ると車検後100kmも走っていませんでした。
ホイールナットは全輪締め付けトルクの掛かりが甘い状態で完全に整備ミスです。
お客様から不安なので悪いところがないかよく診てほしいとご依頼を受けましたのでご依頼通り点検を進めていきます。
タイヤを外すときにはガタやブレーキに引きずりなど無いか確認して進めるのですが、右前車輪の回転が重いのはすぐにわかりました。
引きずりの少ない左前輪
引きずっている右前輪
回転の差を見て引きずっているのはすぐにわかるかと思います。
これはブレーキキャリパーの動きが悪い為ブレーキの戻りが悪く掛かりっぱなしになっているということです。
キャリパーのオーバーホールが必要です。
次にスタビライザーのリンクを点検するとボールジョイントブーツが破けてしまっています。
それも左右共に破れていますが本来保安基準 不適合で車検は合格しません。
エンジンルーム内はエアエレメントケースのロックが外れているのが気になりますし、ホコリの具合から触った形跡がないような・・・
エアエレメントは真っ黒
とっくに交換時期です。
あまりにも ずさんとしか言いようがない状態です。
当然直前に受けた車検での整備記録簿には点検済みのマークや締め付けのマークはついています。
安かろうが早かろうが、点検はしていないし挙句の果てにはタイヤが外れそうなほど危険な目に合うのではたまったものではありません。
自動車整備業界は価格競争で業界自体が疲弊してしまっていることを私は常々警鐘を鳴らしていました。
価格競争はどの業界にも言えることなのですが、技術職の行う価格競争は技術品質の低下しかありません。
安くするということは薄利になるため、格安車検店では台数をこなすことで薄利の埋め合わせをするのですから、当然数をこなす整備士は疲弊しますし面倒な整備は避けて通るようになります。
台数をこなすためにはスピード車検のように45分で終わりますなんてことも謳い文句にするのです。
スピード車検はユーザーは単純に早く終わってよかったと思われるかもしれませんが、業者サイドの目線では薄利の埋め合わせや代車の貸し出しが不要になる(代車管理費用もいらなくなる)などのメリットがあるから行うのであって、ユーザーサイドへの整備の信頼性は二の次になっているものと言えます。
こなす作業だけを行う整備士は技術力も向上しませんので結果として直すことのできない整備士もどきが横行することになります。
そんな仕事に嫌気を刺したものはやめてしまうでしょう。
現在、自動車整備士のなり手は減少の一歩をたどっているそうです。
本来ものを直す(治す)喜びがある職業でそれに憧れるものも多かったのですが、先の価格競争でその魅力を失ったことが、なり手不足の一因なのではないでしょうか?
どの業種でも同じようなことが行われてきましたが、薄利多売では持たないということに気が付き方向転換しているところも多いそうです。
しかし、方向転換したところで技術職はすぐに技能が身につくものではないのでそこで働く良い人材の不足が大きな課題になっているのです。
このようなずさんな整備を目の当たりにするとつくづく考えさせられます。